自作キーボードは、奥深く楽しいものです。しかし、仕事道具として使うとなれば話は別。信頼できるのか?をシビアに見る必要がある、と管理人は考えています。
そこでこの記事では、先日野良ビルドした自作キーボードroBaを「好き」という感情は一旦横に置き、「業務を止めない信頼性」と「日々の業務効率が本当に向上するのか」という観点から、あらためて見つめてみます。
無線だからこその取り回しの良さや、長年連れ添ったKeyball 39とほぼ同じキー配列が、作業にどう影響するのかも見ていきましょう。
前置き:レビュー対象のroBaと「野良ビルド」の概要
今回レビューするのは、自作キーボード「roBa」です。「左右分割」「ワイヤレス」「トラックボール一体型」という、まさに“全部盛り”な特徴を持っています。デスクの配線を一掃し、マウス操作から我々を解放してくれる救世主となり得る存在です。
なお、今回の検証機は、いわゆる「野良ビルド」品。つまり、公式キットではなく、公式ビルドガイドを見て基板や部品を個別にかき集めて組み立てたものです。この一応動くけどじゃじゃ馬(かもしれない一台)を、2週間じっくり仕事の現場に投入してみました。
検証①:ハードウェアの安定性とメンテナンス性
仕事道具は、まず屈強でなくてはなりません。そして、万が一の時にもすぐ戦線復帰できること。PC入力の根幹を担うキーボードだからこそ、ハードウェアの信頼性は最重要項目です。
ネジ不要のケースは業務使用に耐えるか?
roBaの最もユニークな点は、ネジを一切使わないツメ固定式のケース構造です。最初は「本当に大丈夫か?」と少し疑っていましたが、組み上げてみると驚きました。まるで一つの塊のような、見事な剛性があります。タイピングでガタつくような頼りなさは微塵もありません。
むしろ、ネジの緩みを心配する必要がない点は、日々の安心感に繋がります。この潔い設計思想は、仕事道具としてむしろ歓迎すべきものだと感じました。
故障はつきもの。部品の入手性と交換のしやすさは?
仕事で使う以上、故障時のリカバリープランは必須です。roBaは、ロータリーエンコーダを使わない構成であれば、専用部品は基板(PCB)とケースのみ。主要部品のほとんどが汎用品で賄えるのは、大きな安心材料です。
ただし、心臓部であるマイコン「Xiao BLE」やトラックボールセンサー「PMW3610」は、国内では常に在庫が潤沢とは限りません。AliExpressなど中国系の海外通販では購入可能ですが、到着まで時間がかかります。この点は少し心もとないでしょう。
一方、roBa専用部品であるケースとPCBは、設計データがGitHubで公開されています。最悪、自分で作れる(発注できる)という逃げ道が用意されているのは、自作キーボードならではの面白いところです。
検証②:仕事の根幹を揺るがす接続安定性
ワイヤレス機器の信頼性は、接続の安定性にかかっています。入力が途切れたり、反応が遅れたりすることは、集中力を削ぎ、業務効率を著しく低下させるからです。
ワイヤレス接続は途切れずスムーズか?
結論から言うと、roBaのワイヤレス接続は驚くほど安定していました。2週間の使用期間中、キー入力が途切れたり、遅延でイライラしたりする場面は、ほぼありません。まるで有線キーボードのような、盤石の安定感です。
「ほぼ」と言っているのは、時たま「おや?」と思う瞬間があるためです。PCでBluetoothヘッドセットを使いTeamsで通話中、トラックボールの反応がラグつくことがあるのです。再現条件は不明。幸い、WindowsのBluetoothを一度オフ/オンするだけですぐに復帰します。これくらいなら許容範囲でしょう。
なお、この問題はXiao BLEベースのトラックつき無線自作キーボードとWindows/Teamsの組み合わせならどのキーボードでも発生しうるものです。過去cool642tbでも発生しました。roBa特有ではない点は、申し添えておきます。
バッテリーは業務時間中に持つか?
roBaは左右それぞれにLiPoバッテリーを搭載しますが、容量は自分で選びます。管理人はCorne Xiaoを作ったときに買った220mAhのものをroBaに移植しました。roBa、というかトラックボールつき無線キーボードとしては、かなり容量が小さいほうです。
にもかかわらず、PCとの通信やトラックボールセンサーを搭載し消費電力が大きい右手側(Central)であっても、1日10時間の業務で、消費はたったの5%程度でした。左手側(Peripheral)に至っては1〜2%です。
正直なところ、ここまでバッテリーが持つとは思っていませんでした。このペースなら、フル充電から2週間は余裕で稼働します。バッテリー残量を気にしながら仕事をする、あの地味なストレスが杞憂だとわかりました。
くわえて、Win/Mac対応のroBa用電池残容量ウィジェットが、残量が20%を切ったときポップアップで通知してくれるため、充電タイミングも把握可能。
検証③:実用面での使用感とカスタマイズ
安定性を確認したところで、実際の作業効率に影響する使用感を評価します。道具として、いかに自然に、そして快適に使えるかが重要です。
親指トラックボールの操作性は?
roBaの親指トラックボールは、感度をしっかり調整すれば、もはや脳の一部のように機能してくれます。キーボードから手を離さずにカーソルを動かせる快適さは、一度味わうと後戻りできないレベルです。
もちろん、一般的なマウスからの移行には、指が新しい動きを覚えるための練習期間が必要です。しかし、それは新しい相棒と心を通わせるための儀式のようなもの。慣れてしまえば、これ以上ないほど頼りになります。
管理人が個人的に「これが最速じゃね?」と思っているトラックボール練習法もぜひ参考にしてみてください。
打鍵感は長時間作業に耐えうるか?
打鍵感は、長時間のタイピングにおけるモチベーションを左右します。今回はOutemu Silent Peach V3とKailh Deep Sea Silent Miniという、2種類の静音リニアスイッチを組み合わせました。軽い打鍵感と「スッスッ」というほんの少しこすれ音だけが響き、また静音用シリコンにより底打ち時の跳ね返りが緩和されます。長時間の打鍵でも集中力を邪魔せず、また指が疲れにくいので、この組み合わせはおすすめです。(roBaとは直接関係しないですが)
roBaに特化した話でいうと、roBaはケースの剛性が高く、またPCBのヘリ部分を下側のケースが面でしっかり支える構造をしています。そのため、タイピング時の感触がずっしりしており、安定していると感じます。ガスケットマウントの市販品に近い感覚です。
なお本体にやや高さがある点は個人的に気になりました。ケース自体の厚みや、親指側がテンティングされていることの影響でしょう。管理人の場合、少し手首を手前側に折る必要があり、すこし窮屈さを感じることがあります。好みに応じてパームレストを併用すると良いでしょう。
43キーでも仕事は可能か?ZMKの柔軟性
(ロータリーエンコーダを使わない前提で)43個というキー数は、一見すると心許ないかもしれません。しかし、結論から言えば全く問題ありません。
というのも、管理人は34キーで完結する汎用的なキーマップを運用していたためです。それを42キーのroBaに適用するだけ。何の抵抗もなく乗り移ることができました。(具体的なキーマップはRemapで公開しています)
くわえて、roBaが採用しているZMKというファームウェアはとても柔軟。細部まで自分好みに調整できるところが魅力です。管理人の場合、cool642tbを組み立てたときに仕上げた細かなカスタマイズをroBaに転用しています。
道具を自分に合わせ込めるこの柔軟性こそ、自作キーボードが仕事道具として輝く最大の理由かもしれません。
【結論】roBaは仕事道具として「採用」できるか?
2週間、シビアな視点で検証した結果をまとめます。
roBaには、Teams通話中のラグやコア部品の入手性など、いくつかの注意点や乗り越えるべきハードルが存在します。
しかし、それらは対策可能であったり、許容範囲内であったりします。それ以上に、ワイヤレスによる取り回しの良さや、慣れた配列を再現できることによる「効率性」の向上は、疑う余地がありませんでした。 また、基本的なハードウェアや接続の「信頼性」も、期待を大きく上回るレベルにあります。
結論として、roBaは「仕事道具として、胸を張って採用できる」一台です。
まとめ
roBaは、趣味のガジェットという領域を超え、仕事の効率向上に貢献してくれました。
もちろん、自作キーボードという性質上、ある程度の知識と、部品の予備を確保するなどのリスク管理が必要です。しかし、それを乗り越えて自分に最適化した道具としてはとても魅力的です。デスク環境をミニマルにしたい、あるいはKeyballのようなトラックボールつきキーボードをワイヤレスへスムーズに移行したい方にとって、最良の選択肢の一つとなるでしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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