正直、「EarFun Air Pro 4+(EarFun Air Pro 4 Plus)」には、並々ならぬ期待をしていました。
新しいもの好きな管理人としては、
- これまで禁じ手扱いされてきた「LDACコーデックでのマルチポイント接続」
- 次世代規格「Bluetooth LE Audio」と高機能な管理アプリの完全な両立
がついに実現されると信じていたからです。
実際に使ってみると、そこには「ブランドの野心」と「発展途上技術の現実」が同居していました。長年信頼してきたEarFunだからこそ感じたのは、音作りという本質的な実力の高さへの感動と、最新規格を扱う難しさへの気づきです。
本記事では、1.5万円クラスという激戦区に投入された意欲作について、音質という「光」と、先進機能の実装に潜む「影」の両面から、忖度なしでレビューします。
カタログスペックの「全部入り」では飽き足らず、先進機能にこそ惹かれている。そんな方にこそ、購入前に知ってほしい現実があります。
先進機能の「野心」と「現実」のギャップ
EarFunはこれまで、コストパフォーマンスと機能のバランス感覚に優れた優等生的なブランドでした。
しかし今作では、競争の激しい1.5万円前後の価格帯で頭ひとつ抜けるために、かなり攻めた仕様を投入しています。その結果見えてきた「現在地」について触れておきます。
「LDAC×マルチポイント」解禁の裏にある事情
技術的なブレイクスルーを期待していたのが、「LDAC(ハイレゾ相当)」と「マルチポイント(2台同時接続)」の併用です。
これまでのワイヤレスイヤホンでは、帯域幅や処理能力の問題から、この2つは排他仕様(どちらか一方しか選べない)であるのが通例でした。EarFun Air Pro 4+は、この制約をついに解除してきました。これはカタログスペック上、競合に対する強力な優位性となります。
しかし、アプリの設定画面には、目を疑うような注意書きがはっきりと記されています。


「注意:Bluetooth信号の安定性を確保するため、デュアルデバイス接続とLDAC機能を同時に有効にしないでください。」
・・・は?
見た瞬間、こんな疑念が浮かびました。「これは技術的ブレイクスルーで両立させたのではなく、チップメーカー非推奨レベルのリミッターをユーザー責任で外させているだけではないか?」と・・・。
もちろん、上級者向けに選択肢を開放すること自体は否定しません。しかし、公式に「同時に有効にしないで」と警告する組み合わせを、製品の売りの1つにラインナップしてしまうのは、ものづくりの誠実さよりもマーケティング優先の事情を感じてしまいます。もし「多少不安定でも機能を解放してほしい」というニーズに応えたのだとしても、これは危うい実装なのではないでしょうか。
LE Audioとアプリ連携は完璧。ただしAndroid OSの「現在地」は要考慮
本製品の一般向けの売り文句ではありませんが、新しいもの好きな管理人が個人的に注目していたのが「Bluetooth LE Audio」への対応です。もし私と同じように、この最新規格を目当てに購入を検討している方がいれば、少しだけ注意が必要です。
なぜなら、AndroidにおけるLE Audioの実装は、2025年12月現在でもまだ「発展途上」のフェーズにあるからです。
Android OS内のBluetooth技術スタック自体が過渡期にあり、OSの設定画面でもLE Audioは依然として「試験的な機能」といった扱いを受けることが少なくありません。そのため、イヤホン側の対応状況に関わらず、OSのバージョンアップひとつで動作が安定したり、逆に不安定になったりするリスクを抱えています。
執筆時点(2025年12月)での動作状況
実際に管理人の環境(Google Pixel 8a)で検証したところ、非常に興味深い挙動が確認できました。
EarFun公式アプリ上では非対応判定を受けているものの、2025年12月上旬のAndroid OSおよびアプリのアップデートを適用した段階で、問題なくLE Audioが有効化できるようになったのです。
Pixel 8aは、Google公式ではLE Audio対応と明記されています。しかし先日レビューしたSOUNDPEATS Air5 ProはLE Audio接続できない等、いまだ対応にムラがあります。
ようやくOS側の実装が追いついてきたのでしょう。
アプリ連携の完成度は「完璧」だった


ここで特筆しておきたいのが、LE Audio接続中もEarFun公式アプリが何食わぬ顔で正常動作したという事実です。
他メーカーのワイヤレスイヤホンでは、LE Audio(LC3)で接続した途端に管理アプリ側が「Bluetooth(Classic)で再接続してください」と反応しなくなり、イコライザーやキー設定が一切変更できなくなるケースも珍しくありません。
しかしEarFunアプリは、LE Audio接続状態のままでも、イコライザー編集や装着検出のオンオフ、ボタンの機能割り当てなど、いつもの機能がすべて利用可能でした。
「OS側の接続さえ確立できれば、アプリ側の受け入れ体制は万全」という状態で出荷されていたわけです。これは地味ながら、EarFunのソフトウェア開発力の高さを証明するポイントだと言えるでしょう。
あくまで「おまけ」として楽しむべき
とはいえ、LE Audioの接続安定性がGoogle(Android)側のプラットフォームの成熟度に依存していることには変わりありません。
現時点では問題なく動作していますが、あくまで「OSの更新で挙動が変わる可能性がある技術」です。この機能を主目的にこれを選ぶというよりは、「音質の良いイヤホンを買ったら、たまたま最新の実験機能もついてきた」くらいに捉えておくのが、精神衛生上ちょうどいい付き合い方だと言えるでしょう。
ちなみに、レビュー中に
・Androidスマホで
・Bluetooth LEオーディオで音楽流しながら
・左右分割トラボつき自作キーボードでトラボを動かすと
→カーソルが激しくラグる
という、超ニッチな発見をしました。
roBaやcool642tbなどをスマホで使っている人は大人しくBluetooth Classicで接続しましょう・・・
音質は「クラスを超えた」完成度


ここまで機能面での「過渡期感」を指摘してきましたが、ここからは評価を一転させなければなりません。
なぜなら、音質に関しては非常に堅実で、価格以上の価値があるからです。
コーデック論争に終止符? ハードウェアの勝利
LE Audio(LC3コーデック)が使えるようになったことで、従来のHDオーディオ(LDACやaptX Adaptive)との聴き比べをしてみました。
結論から言うと、「劇的な違いはない」というのが正直な感想です。
厳密に聴き込めば、高音の余韻や微細な響きに違いを感じることはできます。しかし、純粋に音楽に没頭する用途であれば、どちらで聴いても全く問題ないレベルです。
個人的な感覚ですが、音質の良し悪しを決める要素のうち、コーデックの違いが占める割合はせいぜい1〜2割です。残りの8〜9割は、ドライバーや筐体設計といった「ハードウェアの基礎体力」で決まります。その2割の違いを必死に探して耳をそばだてるよりも、コンテンツそのものを楽しむ方が健全ではないでしょうか。
そして、このEarFun Air Pro 4+は、その「基礎体力」が素晴らしいのです。
DD+BAのデュアルドライバーと、それを活かす調律が生み出す「艶」


前作からの最大の進化点は、10mm径のダイナミックドライバー(DD)に加え、高域を担当するバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを搭載した「デュアルドライバー構成」になったことです。
これが実にいい仕事をしています。
イメージとしては、自宅のオーディオ環境で、重低音を鳴らすサブウーファーと、繊細な音を奏でるツイーターを別々に用意し、適切にチューニングした状態に近いです。
- 低域: 決してボワつかず、バスドラムのキック音に芯があり、心地よく乗れる
- 中域:適度な粒度感で雰囲気たっぷり、柔らかでなめらかな音色
- 高域: シンバルなど金属音の定位がはっきりしており、耳に刺さることなく綺麗に伸びる
単に2つのドライバーを積んだだけではありません。それぞれの担当音域が繋がり、違和感なくひとつの音楽として鳴らす「調律」が上手くいっています。
この価格帯で、ここまでの分離感とまとまりを両立させているのは、EarFunというブランドが積み上げてきた音作りの実力が本物である証拠でしょう。
総じて、なめらかというか、艶やか(あでやか)です。エレクトロスイングが似合いますね。
シアターモード廃止でも「立体的」な理由
過去のEarFun製品(EarFun Air 2 NCなど)には、映画視聴時などに音場を広げる「シアターモード」が搭載されており、これを愛用していた方も多いはずです。管理人もシアターモードに舌を巻き、これがあるからEarFun Air 2 NCを長く愛用していました。
しかし残念ながら、Air Pro 4+では「シアターモード」が削除されているのです。
スペック上は「退化」に見えるかもしれません。しかし実際に聴いてみると、「これ、最初からシアターモードかかってない?」と錯覚するほど、デフォルト状態で音に立体感と奥行きがあります。
おそらく、ドライバー自体の基礎体力が向上したことで、人工的なエフェクトで無理やり音を広げる必要がなくなったのでしょう。音源の位置関係が把握できる定位感は健在で、動画視聴でも十分な没入感が得られます。
ただ、「機能が減った」という事実は、事情を知らないユーザーにはマイナスに映りかねません。せっかく基礎性能でカバーできているのに、見せ方で損をしている点は少しもったいないと感じました。
公称値「-50dB」の実力と立ち位置
音質と並んで特筆すべきなのが、アクティブノイズキャンセリング(ANC)の実力です。
カタログスペックでは、最大-50dBのノイズ低減効果が謳われています。これをオンにした瞬間、エアコンの駆動音やPCのファンの音、遠くの車の走行音などが「スッ」と消え去り、確かな静寂が訪れます。個人的な体感としても、看板に偽りなしの強度が出ており、作業への没入感は非常に高いです。
ただし、これを「驚異的なコストパフォーマンス」と呼ぶべきかは冷静になる必要があります。なぜなら、同ブランドの廉価モデルである「EarFun Air Pro 4i(約8,000円)」ですら、すでに同等の-50dB ANCを実現しているからです。
つまり、1.5万円クラスの本作において、強力なANCはもはや「あって当たり前」の装備であり、EarFunブランドとしての「最低保証ライン」が高止まりしていることの証左と言えます。価格差の価値はANC性能そのものではなく、前述したデュアルドライバーによる音質差や付加機能に見出すべきでしょう。とはいえ、上位機種として期待される静寂性能を、一切の妥協なく搭載してきた点は評価できます。
所有欲を満たす「白」と実用的な「付属品」
最後に、製品の物理的な側面についても触れておきます。ここはカタログスペックには現れない部分ですが、毎日の使い勝手を左右する重要なポイントです。
「ホワイトパール」な質感と斜め開きの妙




今回は「ホワイト」のカラーを選びましたが、これが正解でした。
実物を手に取ると、単なるプラスチックの白ではなく、「ホワイトパール」のような微細な光沢を含んだマットな質感に仕上がっています。
あえて「モノとしての所有欲」や「さりげない高級感」を求めるなら、このホワイトの真珠のような質感が非常に刺さると感じました。
なお「ブラック」カラーは、黒と濃いグレーのツートンという落ち着いた配色です。世の中には「黒×金」のギラついたゴージャス感を出している製品もありますが、EarFun Air Pro 4+はそういった路線ではなく、あくまで実用的な道具として高級な佇まいを目指している印象があります。

また、ケースの構造も秀逸です。一般的な「上蓋だけがパカッと開く」タイプではなく、斜めに大きく切れ込みが入るように開く設計になっています。開けた瞬間にイヤホン全体が露出するため、指でつまみ出しやすく、収納もしやすい。地味ですが、毎回の出し入れストレスを減らす「良いUX」です。
5種のイヤーピースに見る「装着感」への執念

付属品にも、EarFunの本気度が伺えます。
通常、この価格帯ではS/M/Lの3サイズ展開が一般的ですが、本作には本体装着済みを含めて合計5サイズものイヤーピースが同梱されています。
特筆すべきはシリコンの質感です。
非常にサラサラとした感触で、耳の中がベタつく不快感がありません。カナル型特有の「異物感」や「圧迫感」が苦手な人には、非常に受け入れやすい素材でしょう。
一方で、摩擦が少ないため、一般的なイヤーピースに比べてグリップ力はやや弱く感じます。
個人的な攻略法としては、「普段より少し小さめのサイズを選び、耳の奥までグッと押し込む」ように装着するのがベストでした。こうすることで、圧迫感を抑えつつ、しっかりと固定され、デュアルドライバーの低音も逃げずに楽しめます。
まとめ
総合評価:
- デュアルドライバー(1DD+1BA)とハイレベルな調律による艶やかで分離感のある音質
- LE Audioと公式のアプリ完璧な連携
- ホワイトモデルの高級感あるパール加工と使いやすいケース
- 5サイズのイヤーピースによる細やかなフィッティング
- 注目機能「LDAC×マルチポイント」を公式が非推奨するちぐはぐさ
- シアターモード削除(基礎音質でカバーできているが選択肢が減った見せ方が微妙)
本記事の冒頭で管理人が結構な勢いで細部をこき下ろしてしまったのですが、こうして冷静にまとめてみると、見せ方の残念さはありながら、全体的にハイレベルという評価となります。なので★4.5としました。
最後に、「EarFun Air Pro 4+は買いか?」という問いに答えを出しますと、「買いだし、音質は間違いなく本物だけど、先進機能については『一緒に成長を楽しむ』くらいの覚悟が必要」という評価になります。
- 音質: 文句なしの合格点。デュアルドライバーの調律は見事で、コーデックの違い云々を気にするのが些末に思えるほど、ハードウェアとしての音が完成されている
- 機能: 攻めている分、過渡期の不安定さも抱えています。LE Audioの挙動がAndroid OSの更新に依存したり、LDAC×マルチポイントが実験的であったりと、「安定・完璧」を求める人には少しスリリングかもしれない
とはいえ、それらの背景を理解した上で、「音の良いノイキャンイヤホン」として選ぶなら、その満足度は非常に高いはずです。LE Audioのような最新規格を、OSの進化とともに追いかける「人柱的な楽しみ」も、この製品の隠れた魅力と言えるかもしれません。
気になった人は是非チェックしてみてくださいませ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

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