HAYLOU S40レビュー | スペック表の罠と、それを超える本当の実力

3.5
HAYLOU S40レビュー

昨今の消費者は、製品そのものの良さというより、それに付随するスペック表や商品説明の綺麗さに心をなびかせがちなのかもしれません。製品から得られる体験ではなく、情報を”食べて”生きているかのようです。個人的には、理解はできるものの、なにか釈然としないものを感じていました。

今回レビューするワイヤレスヘッドホン「HAYLOU S40」は、まさにその流れを象徴する一台です。デュアルドライバー、強力なANC、LDAC対応、空間オーディオ、長時間バッテリー…。1万円を切る価格帯で、およそ考えつく限りの機能を詰め込んだ、チェックリスト的に完璧な機種といえます。

技術的に尖った一点突破型の製品を好む管理人としては、普段あまり選ばないタイプ。ですが、こういう全方位を攻めたコストパフォーマンスが売りの製品を丸裸にしてみるのも面白いのではないか。そう思ったのがレビューのきっかけです。

この記事は、HAYLOU S40の華やかなスペックシートと、実際の使用感を一つひとつ答え合わせしていくレビューです。商品提供は受けていますが、遠慮は一切なし。レビュワーの矜持として、良い点も悪い点も、誠実に掘り下げていきます。

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本記事は商品提供を受けて作成しています

HAYLOU S40のスペック表はまるでチェックリスト

まずはHAYLOU S40が、どれほど魅力的なスペックを掲げているのかを見ていきましょう。1万円未満という価格帯を考えると、そのリストは圧巻です。

項目スペック
ドライバー40mm+20mm デュアルダイナミックドライバー
ノイキャン最大-50dB ハイブリッドANC
バッテリー最大90時間(ANCオフ)
対応コーデックLDAC / AAC / SBC
マイク着脱式ブームマイク搭載
特殊機能空間オーディオ対応
接続マルチポイント接続対応

これだけの機能が満載で1万円を切っているのですから、驚きを通り越して少し笑ってしまうほど。カタログスペックだけを見れば、数万円クラスの高級機にだって引けを取りません。

まるで「イマドキのヘッドホンに求められる機能」というチェックリストを、一つひとつ丁寧に塗りつ潰すために作られたかのような製品。 これが、HAYLOU S40の第一印象であり、最大の武器であることは間違いないでしょう。

では、この華やかなスペックリストは、実際の使用感とどれほど一致するのでしょうか。次のセクションから、いよいよ答え合わせの始まりです。

看板に偽りあり?スペック表の言葉を丸裸にする

ここからは、HAYLOU S40のスペックシートに書かれた言葉を一つずつ検証し、その実態を明らかにしていきます。どんなに優れたハードウェアを持っていても、ユーザーとの信頼関係を損なうような点が見過ごせないのも事実。

まずは、最も気になったマーケティングの姿勢から。

検証1:ANC性能は-50dBという数字を信じるな

HAYLOU S40は「最大-50dB」という、非常に強力なアクティブノイズキャンセリング(ANC)性能を謳っています。これは1万円未満の価格帯では破格のスペックであり、大きな期待を寄せる人も多いでしょう。

しかし、実際に使ってみた管理人の感覚で言うと、正直-50dBというほどの静寂は得られません。昨今レビューした-50dBのEarFun Air Pro 4iと比べると明確に見劣りします。もちろんカナル型イヤホンとヘッドホンでは物理的な遮音性で差が出ます。それを考慮してカナル型イヤホン換算すると、だいたい-35~-40dB程度かな、という印象。近くでロボット掃除機が走っていてもその音がかき消されるわけではなく、自分の足音が聞こえなくなるレベルでもありません。

もちろん、ANCをオン/オフすればその差ははっきりとわかります。サーッという空調のノイズや、遠くの環境音は綺麗に打ち消してくれます。ただ、人の話し声やキーボードのタイプ音など、中高音域のノイズはそれなりに聞こえてきます。

あくまで「音楽に集中するための、最低限の補助」と評するのが最も正確でしょう。 この価格帯で完全な静寂を求めるのはお門違いですし、実用上はこれで十分と感じる人も多いはず。ただ、-50dBというスペックを鵜呑みにして購入すると、少しがっかりするかもしれません。数字はあくまで参考程度、と割り切るのが良さそうです。

ちなみに、通常のANCモードとは別に「アダプティブANCモード」という、環境に応じてノイズ除去のレベルを自動調整する機能もありますが、何度試しても両者の違いはわかりませんでした。

検証2:空間オーディオはデュアルドライバーの魅力を打ち消す

HAYLOU S40の目玉機能の一つが「空間オーディオ」です。なお、この機能は高音質なLDACコーデック利用時には使えず、オフにする必要があります。

空間オーディオには、頭の動きに音が追従する「動的モード」と、臨場感を高めるとされる「静的モード」の2種類が用意されています。

動的モードは、たしかに説明通り。顔の向きを変えても音の定位が正面に固定され、まるで目の前にスピーカーが置かれているかのような体験ができます。これはこれで面白い試みです。

しかし、問題は静的モードです。臨場感がアップするかと問われれば、答えは明確にNOでした。実際に試してみると、なぜかボーカルだけが妙に強調され、そのほかの楽器の音が少し抑制されてしまうのです。結果として音源が本来持つ迫力や広がりが失われ、なんとも平面的で物足りないサウンドになってしまいました。

HAYLOU S40が持つ最大の魅力である、デュアルドライバーによる解像度の高いサウンドを、ソフトウェア処理が台無しにしてしまっている。 管理人にはそう感じられてなりません。正直、空間オーディオをオフにしている時の方が、はるかに音は良いです。

優れたハードウェアを活かしきれていないソフトウェアのチューニング。ここにも、この製品の「もったいなさ」が色濃く出ています。

検証3:着脱式ブームマイクは「おまけ」と割り切るべし

見た目のインパクトも大きい、この着脱式のブームマイク。ヘッドセットとして通話やゲームにも使えるのでは、と期待する人もいるでしょう。

結論から言うと、このマイクは本格的な単一指向性コンデンサーマイクのようなものではありません。「イヤホンのケーブルについているマイクが、たまたま口元まで伸びてきているだけ」と表現するのが最も的確です。物理的に口との距離が近いので自分の声は優先的に拾いますが、指向性がないため後ろで回っている洗濯機の音や、少し離れた場所の物音も普通に拾います。

このマイクの実用性を確かめるべく、いくつかのシーンで実際に使ってみました。

  • 音声入力: 実は、この記事の原稿の一部はこのヘッドホンで音声入力しています。静かな部屋であれば、十分実用になるレベルでテキスト化できています。ただし、ロボット掃除機が走り出すなど、周りが騒がしくなると途端に精度が落ちました。
  • Web会議: カフェからWeb会議に参加してみたところ、自分の声は相手に届くものの、周囲の会話やBGMも思った以上に拾ってしまいました。自分が話していない時はミュートにするなど、周りへの配慮が必須になるレベルです。
  • ゲーム実況: 試しにプレイしながら録音してみると、自分の声と同じくらいの音量でキーボードの打鍵音やマウスクリック音がカチャカチャと録音されてしまいました。本格的な配信に使うのは正直きついと言わざるをえません。

このブームマイクは、あくまでおまけレベルの性能と割り切るのが正解です。 1万円を切るヘッドホンに高級マイク並みの性能を期待するのは酷ですが、過度な期待は禁物です。

検証4:謎の規格やhttpサイト。細部の詰めが甘い

パッケージや説明書に、本製品は「Wireless v6.0」を採用していると大きく書かれています。少し詳しい人なら「Bluetooth 6.0のことか」と思うかもしれません。なら素直にそう書けばいいですし、実際Amazonの商品タイトルにはBluetooth 6.0と書いてあります。

さらに、ブランドとしての脇の甘さは、説明書のアプリダウンロード用QRコードにも表れています。このQRコードのリンク先が、なんと「http://」で始まっているのです。ブラウザがhttpサイトにデフォルトで警告を出すようになった昨今、暗号化通信(https)に対応していないなんて、ウェブサイトとしてありえません。もちろん、その先のストアページは本物ですが、途中のページでユーザーに不安を与える作りは甚だ印象が悪い。

こうした細部への配慮のなさが、製品全体の信頼性を損なってしまうのは、非常にもったいないと感じます。

スペック表が語らない価値:文句なしに「買い」と言えるポイント

ここまで手厳しい評価を続けてきましたが、HAYLOU S40がただのスペック番長でないことは、ここからが本番です。特に、その音質は価格を考えれば特筆すべきものがあります。

ハードウェアの素性の良さが、荒削りな点を補って余りある魅力を放っているのです。

音質:1万円未満で十分な迫力と解像度。デュアルドライバーは正義

HAYLOU S40の音をLDAC接続で聴いた第一印象は、「これ、本当に1万円しないの?」という素直な驚きでした。

その秘密は、やはりデュアルダイナミックドライバーにあるのでしょう。低音域は、ただボンボンと鳴っているだけではありません。Creepy Nuts の『オトノケ』を聴けば、イントロのバスドラムの「ドン」というアタックの後に続く、空気が震えるような響きまでリアルに感じ取れます。YOASOBIの『UNDEAD』では、これまで意識していなかったベースラインが、いかに激しく動き回っていたかに気づかされました。

中高音域も、もう一方のドライバーがしっかり仕事をしており、解像度は十分。様々な楽器の音色を一つひとつ丁寧につぶさに追いかけることができ、分析的に音楽を聴くのが好きな管理人にとっては、これが実に楽しい。

1万円未満のワイヤレスヘッドホンとしては、音質は頭ひとつ抜けているのではないでしょうか。 最近、開放感のあるオープンイヤー型イヤホンばかり使っていた人にとっては、その音の密度と迫力に良い意味で大きなギャップを感じられるはず。「デュアルドライバーは正義」、そう言いたくなるクオリティです。

操作性:一時的な外音取り込みのUX設計が秀逸

HAYLOU S40を使っていて「これはうまいな」と感心させられたのが、タッチコントロールによる外音取り込み機能です。

右のイヤーカップ部分がタッチセンサーになっており、ここを指で長押ししている間だけ、再生中の音楽が小音量になり、マイクが周囲の音を拾う「外音取り込みモード」に切り替わります。そして、指を離せば瞬時に元のANCモードと音量に戻るのです。

これが、驚くほど便利。例えばコンビニのレジで会計をする時や、駅のアナウンスを少しだけ聞きたい時。わざわざヘッドホンを外したり、ANCのモード切替ボタンをカチカチと何度も押したりする必要がありません。「聞きたい」と思った瞬間に右耳にそっと手をやり、用事が済んだら手を離すだけ。この一連の流れが、実に自然に行えます。

この直感的でストレスのない体験は、ズルいとさえ感じてしまいます。 音楽への没入と、現実世界との接続をシームレスに切り替えてくれる、これは惚れ-惚れするほど優れたUX設計です。

ただし、ヘッドホンの位置を直そうと不意に触れた時に、ダブルタップ操作が誤作動して音楽が一時停止してしまうことも。これだけは少し注意が必要かもしれません。

バッテリー:週一充電でOK、精神的な余裕が生まれる

ANCオフ時で最大90時間というバッテリー性能は、まさに看板に偽りなしです。実際にこのヘッドホンをメイン機として数日間過ごしてみましたが、一度も充電が必要になる場面はありませんでした。

日々の通勤や作業中に数時間使ったところで、バッテリー残量はほとんど減りません。短期の旅行なら、充電器を持っていかなくても全く不安を感じないでしょう。

この「充電という行為から解放される感覚」は、想像以上にQOL(生活の質)を高めてくれます。 ガジェットが増えるほどに悩ましくなる日々の充電管理。そのタスクが一つ減るだけで、これほど精神的な余裕が生まれるのかと驚かされます。

平日は毎日使って、週末の夜に一度充電しておけばOK。そんな運用が余裕でできてしまう安心感は、HAYLOU S40の大きな魅力の一つです。

装着感は快適、ただし注意点も

最後に、長時間利用する上で重要な装着感についてです。

管理人(身長172cm・男性)が装着した限りでは、重さで頭が疲れたり、締め付けが強くて圧迫感を感じたりすることは全くありませんでした。ANCヘッドホン特有の、耳がツンとするような感覚が苦手な人もいるようですが、個人的にはそれも皆無。非常に自然な着け心地です。

特に、イヤーマフが柔らかいおかげで、メガネをかけたままでもテンプル(つる)が圧迫されず、痛みを感じにくいのは嬉しいポイントでした。メガネユーザーにとって、これはレギュラー入りできるかどうかを左右する重要な要素です。

ただし、一つだけ長期的な懸念点があります。イヤーマフやヘッドバンドのクッションは、表面がビニールレザー製です。この素材は宿命的に「加水分解」という劣化を避けられず、数年も経てば表面がポロポロと崩れ落ちてくる可能性が高いでしょう。

価格を考えれば仕方のない部分ですが、長く使いたいのであれば、汎用の交換イヤーパッドなどを探しておくのが安心かもしれません。

まとめ

総合評価:

良いところ
  • 価格を超えたデュアルドライバーの音質
  • 直感的で便利な外音取り込み機能
  • 充電を忘れるほどのバッテリー持ち
  • メガネでも快適な軽い装着感
惜しいところ
  • 実態と異なるANCスペックと謎の規格表記
  • ハードの良さを消す微妙な空間オーディオ
  • あくまで「おまけ」レベルのマイク性能

ここまでHAYLOU S40というヘッドホンを、スペックシートと照らし合わせながら丸裸にしてきました。見えてきたのは、「ハードウェアの出来は逸品、しかしソフトウェアと細部の詰めが残念すぎる」という、非常にもったいなさを感じる二面性です。

ハードの素性は良く、1万円未満のヘッドホンとしては高いレベルでまとまっているのは間違いありません。しかし、空間オーディオの微妙なチューニングや、細部の脇の甘さなど、ブランドとしての未熟さが見え隠れするのもまた事実です。

チェックリストを埋めるような高スペックで期待値が高くなった分、細部の粗さが悪目立ちしてしまう。そんな体験をフラットに評価すると、★3.5にせざるをえませんでした。

結論として、このヘッドホンは「良い音で音楽を、とにかく長時間楽しみたい」という目的が明確な人にとっては、最高のコストパフォーマンスを発揮する一台です。数々の荒削りな点に目をつぶり、その一点に価値を見出せるのであれば、これは間違いなく「買い」でしょう。

ガジェットレビュワーの矜持として、提供品であっても手加減せずに指摘してきましたが、それもこれもハードウェアのポテンシャルがあればこそ。今後のHAYLOUというブランドの成長に、少しだけ期待したくなる。そんな不思議な魅力を持ったヘッドホンでした。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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